Q
賃貸マンションから転居しました。敷金の一部を返してもらえると思っていたら、逆に家主から修繕費用との差額を求められました。賃貸契約書に「古くなったカーペットを交換する費用を敷金から控除する」「畳の表替えや壁紙・襖の張替え、そのほかの小修繕に要する費用は借主の負担とする」などの特約条項があるので、家主はこの特約条項を理由に私が負担すべきだというのです。支払わなければならないのでしょうか?
A
借主は賃貸契約が終了するときには、自らが設置したものを取り除くなどの現状回復措置をして家主に返還しなければなりません(原状回復義務)。しかし単に、古くなったものを取り替えたり新品にして返すまでの必要はありません。
目的物を賃貸する場合、通常の使用にともなって賃貸物が経年変化し、古くなるのは当然です。したがって、そのような賃貸借契約の性質から、借主に新品に近い状態にして返還する義務はないとされ、経年変化や自然の劣化・消耗による目的物の価値減少分は賃貸料収入によってカバーすべきであると考えられています。
ただし、借主の善管注意義務違反や社会通念上の通常の使用を越える使用によって毀損・汚損が発生した場合は、その修繕費用は借主が負担するべきと考えられています。
以上のことから、特約条項があった場合でも、文言どおりに敷金から控除されるとは限りません。賃借物の通常の使用に必然的にともなう消耗や汚損など、時間の経過によって生じる自然な劣化・損耗などについては、特約があっても原則として敷金から控除できないとされています。
Q
相続財産、いわゆる遺産の対象なるのはどのような財産をいうのでしょうか?
A
相続財産の対象となるのは、被相続人(死者)の財産に属した権利義務です。たとえば、不動産(土地、建物)や動産(時計、指輪)の所有権、人に金を貸していた場合の貸金債権、あるいは、人に金を借りていた場合の借金の返済義務などが典型例です。さらに、売主の地位(瑕疵担保責任)や、無権代理人の責任なども承継されます。このような、被相続人が有していた財産法上の地位が、広く相続の対象になるといえます。
被相続人の財産に属していた権利義務であっても、その性質からみて、相続の対象とならないものがあります。
その第1は、一身専属権(被相続人以外の者に帰属させることができないもの)といわれるものです。具体的には、委任者・受任者の地位、財産分与請求権、扶養の権利義務などがあります。従来、生命侵害による死者の慰謝料請求権が相続されるか否か議論されてきましたが、最高裁は、慰謝料請求権そのものは金銭債権であるとして、相続の対象となると判示しています。
第2は、系譜、祭具、墳墓といった祭祀財産です。祭祀財産を、被相続人から指定されたり慣習によって承継することになっても、承継者には、祭祀を継続する法律上の義務はありません。
最後に、いうまでもなく、生前被相続人に属していなかった財産的権利義務は相続の対象となりません。たとえば、被相続人が掛けていた生命保険金の問題があります。受取人を被相続人本人にしてあった場合には相続財産となりますが、共同相続人のうちの一人を受取人に指定していた場合には、保険金請求権は、その受取人の固有財産となり、相続財産とはなりません。すなわち、相続人子供A、Bのうち、保険金の受取人をBと指定していた場合、Bが相続放棄をした場合であっても、Bはその保険金を受け取ることができることになります。